開発ストーリー 05
従来のTKシリーズから継承した頑丈な構造に、輸送性や組立性などのユーザメリットをプラス。都市部を中心とした狭所現場での活躍が期待される、テレスコピッククローラクレーンTK-Gシリーズの55tクラス新モデル
2017年、TK-Gシリーズの最新作である75tクラスの「TK750G」を発売。コベルコ建機のクレーン技術で培った従来の頑丈な構造やパワーはそのままに、「最小輸送幅2.99m未満」を実現し、基礎土木作業やその相番機としての活躍で、高い評価を獲得してきた。
そして2018年6月、この思想を受け継ぐ55tクラスの「TK550G」が、満を持して登場した。従来のTKシリーズから継承した頑丈な構造に加えて、高い輸送性と組立性を兼備。TK750Gの上市から約1年の期間を経て、75t機のフィールドとは異なる市場ニーズに対応し、都市土木工事などの狭所現場でも機動力を発揮するマシンとして注目を集めている。
TK550Gに先立って開発されたTK750Gは、従来のTKシリーズの魅力を維持しながら、排出ガス2014年規制をクリア。さらに、最小輸送幅2.99mのコンパクトボディの実現で、トレーラ輸送に伴う「特殊車両通行許可」への書類作成が不要に。申請の煩雑さや、認可されるまでのリードタイムも削減でき、稼働時間のロスといった問題を解決した。
今回のTK550Gの開発においても、基礎土木を中心とした過酷な現場で活躍できる従来の魅力を継承しつつ、輸送性などの付加価値をプラスするという基本思想は同じだった。しかし、単純に75tから55tへのスケールダウンを図ったわけではない。市場ニーズを開発部門へ還元するマーケティングの視点から、開発コンセプトの形成に携わった森本雄也は、55tクラスの新モデルを開発した意義をこう語る。
ただ、これらを実現するためには、従来機種の強度やパワーを保ちながら、全体のコンパクト化と同時に軽量化を図ることが必要だった。つまり、剛性・サイズ・重量の三すくみ的な課題の同時解決が求められたのである。今回の開発プロジェクトリーダーを務めた中澤亨は、その苦労をこう振り返る。
中澤
そもそも剛性と軽量化、空間と油圧配管や各種ケーブルの取り回しなどは相反する要素です。TK750Gのスケールダウンモデルとしての制約条件がある中で、どちらかを立てれば、片方が立たないといった、難解なジグソーパズルを解くような難しさがありました。ただ、こうした産みの苦しみは、私たち技術者の腕の見せ所でもあります。それをモチベーションに、一つひとつ最適解を探り、課題を解決していきました
これまでコベルコ建機が一貫してきたのが「ユーザー現場主義」の姿勢だ。今回の開発でも、それが随所で反映されている。例えば、都市周辺部の現場は非常に狭く、組立スペースに悩むケースが多い。日々サービスの最前線に立つ北村勇樹は、現場ニーズを肌で感じてきた経験で、当初から「TK550Gのニーズは高い」と確信していたという。
北村
TK550Gは、75tクラスよりも組立・分解が容易です。ブームをつけたまま自走して狭い現場に入ることが可能で、広い組立スペースや相番機がなくても、直ちに稼働できる状態になります。時間や労力、人件費などのロスを排除しながら、現場で即戦力化できる機動性は、現場がずっと待ち望んでいたものでした
加えて、今回はボディ後部を短くして後端旋回半径を3.7mに短縮している。後端が短くなった分、カウンタウエイトを小さくて重いものにする必要はあったが、充填などの工夫で解決。都市土木工事での機動力をより加速させた。
現場オペレータの使い勝手や操作感を大切にする精神は、ウインチのチューニングにも表れている。ここでは油圧のプロとして、井口光明が力を発揮した。
井口
常に安定したブレーキングを実現するために、湿式ウインチを採用しました。特にブレーキの効き方には気を配り、オペレータの方の意見をもとに、自身でも幾度となく試行錯誤を繰り返し、『気持ち良く、しかも安定して作業できる絶妙なレスポンスのタイミング』を探っていきました
実は、TK550Gの開発メンバーは、各分野の若手スタッフが集められたものだった。
「任せられた責任が重い分、開発を担う各自の成長も促された」と語るのは、機械の設計分野で活躍した久保貴史だ。
久保
操作する方の利便性を軸に、機体への昇降時やメンテナンスを容易にするハンドグリップの配置、ステップの位置と幅などにも徹底してこだわりました
TK550Gには、作業工具やメンテナンス部品を収納する別置きの工具箱も設けられている。これをつくるにあたっては、輸送トラック積載時に横置きが可能な2m幅を前提とし、段ボールで実寸模型を築いてさまざまな人の意見を収集。使い勝手と開口時の剛性を考えて、フタは1:2の二分割で開く構造にした。こうした細部にわたる機能追加を含め、若いチームがのびのびと開発を進めることができた背景には、風通しの良い社内風土が追い風になったという。
久保
先行するTK750Gの開発スタッフが同じ部署におり、不明点なども相談すればすぐに的確な回答が得られる環境に助けられました。先輩方の知見や成果を共有しながら、さらに新しい開発テーマに取り組むという流れが生まれたことが、若手スタッフ中心の開発を成功させた大きな要因だと思います
一方で、プロジェクトを率いた中澤は、各自が開発に専念するための環境整備にも注力していた。例えば、開発過程における各種の試験は、従来であれば開発者自身が試験要領書類の作成、試験中の立ち会いや最終分析にいたるまで、すべてのプロセスに関わっていた。ただ、それが相応の負荷となっていたことも事実だ。
中澤
今回は、試験部門と早い段階で情報を共有し、役割分担を明確化しました。試験部門で実施できる試験や報告書類作成を、可能な限り一任したことで、私たち開発部門が試験結果の分析に軸足を置き、より深い検証ができました。各関係部門への交渉は苦労もありましたが、部署を超えた一つの開発チームとして、それぞれの守備範囲で最善を尽くしてもらうことで、『一丸となってより良い製品づくりを支えていこう』という機運と文化を生み出せました
TK550Gは、現場の声を大切にしながらお客様ニーズに応える開発姿勢と、それを実現するために部門を越えたスクラムを強化して「優れたものづくり」を進める企業文化、その両輪から誕生したコベルコ建機の自信作だ。機械に試乗したお客様からは早くも「狭い現場でも余裕のある動きができそうだ」「オプションの雑用ウインチなども使い方次第で新しい用途が広がる」といった声が上がるなど、評価も上々。都市部の工事需要が拡大するなかで、TK-Gシリーズのさらに幅広いお客様への広がりが期待される。
※掲載内容は発行当時(2019年1月)の情報です。
森本
TK550Gは最小輸送幅だけではなく、クローラ縮小時の最小幅も2.99mとなっており、自走して現場に入ることが可能です。2020年の東京五輪を契機に、それ以降も続くであろう都市部の再開発事業などでは、狭所現場も多いことが想定されます。従来機よりもコンパクトなTK550Gなら、そうした現場でも活躍できるはず。車幅は小さくなりましたが、可能性は大きく広がるのです