機械の状況を遠隔で見守り、安定稼働を支援

トラブルの前兆を察知し、
事前に故障の芽を摘む
予防保全を実現

開発ストーリー 02

Kスキャン

現場で活躍するショベル各部のデータを日々見守ることにより、トラブルの発生を事前に予測。問題が起こる前に最善の対応を図ることで耐用性をさらに高め、安定稼働をサポートするコベルコ独自のIoT(Internet of Things)を駆使した予防保全システムだ

中川 智廣
企画本部 ICT推進部
ICTプロダクトグループ
情報の共有化がもたらす、あらゆる可能性に挑戦
2001年入社。本プロジェクトには、全国のモニタによる評価段階から参画。「実際の現場におけるショベルのさまざまな使われ方のなかで得た“気づき”を、システムのブラッシュアップにフィードバックしました」

樽海 靖孝
GEC要素開発部
制御システム系開発グループ
マシンとサーバ間のスムーズな情報流通を推進
2013年入社。ITコントローラのエキスパートとして、メカトロニクスの統合に尽力。「Kスキャンの開発では、センサで収集した各部のデータをサーバに送ったり、遠隔診断をするための通信ソフトウェアの開発を担当しました」

松本 竜馬
西日本コベルコ建機 九州支社
福岡営業所 福岡工場 工場長
エリア全体でお客様サービスの最大化に努める
1994年入社。「Kスキャンにより、広範なサービス担当エリアのなかで迅速かつ正確なサービス対応ができるようになりました。今後は、現場に伺うスタッフのスキルアップなど、サービスの質向上も目指しています」

藤(とう) 晃宏
西日本コベルコ建機 九州支社
福岡営業所 福岡工場
データに基づくサービス提案で信頼を深める
2008年入社。Kスキャンのデータをもとにサービス提案を推進。「GPS情報の活用は訪問の効率化につながりました。また、視覚的に情報を伝えられるタブレット端末を用いた説明で、お客様の理解や互いの絆も深まっています」

コベルコのショベルは、早くから位置情報・燃費情報をはじめとする稼働情報をユーザに提供する「MERiT」システムを導入。ユーザの稼働管理を支援するとともに、サービス活動の効率化にも活用してきた。

そして、2016年に販売を開始した10型シリーズでは、安定稼働を支える見守り機能として、「Kスキャン」という新たなシステムを導入。これは、ショベル稼働の最重要部位である動力装置の運転状態を、常に把握してトラブルの予兆を察知し、サービスマンへ点検を促すことで重大故障によるマシンダウンを未然に防ぐことを狙いとしている。すでにSK250、SK330などの中・大型機やハイブリッドショベルSK200Hには搭載済み。17年9月からはSK125SRやSK200、SK225SRなどにも標準装備される。

有事に至る予兆を察知し、機械の稼働を止めない

Kスキャンの開発プロジェクトに参画した中川智廣は、開発背景をこう語る。

中川

ショベルに求められる排ガス規制や燃費などの環境性能は、年々高まっています。その対応のために機械の仕組みは複雑化し、さまざまな機能の組み合わせにより装置の不調を捉えることが難しくなってきました

その一方で、すべてのお客様により良いサービスを提供するには、巡回活動や点検のさらなる効率化も必要だった。

中川

これらの課題を解決するため、ショベルのすべてのセンサの情報を収集し、健康状態を自動的に評価。その結果をタイムリーにサービス現場に提供するシステムを開発しました

これが「Kスキャン」であり、既存の「MERiT」システムと組み合わせて運用することで、点検を必要とする機械とその所在、部位、状態を効率的に把握することが可能になった。

ソフトウェア開発を担った樽海靖孝はこう付け加える。

樽海

これまでは、サービスマンの勘や経験といった個人の力量がサービスの質に大きな影響を与えていました。しかしKスキャンは科学的なデータをもとに診断を行い、誰もが適切なタイミングでその情報を得られるので、個人の力量に左右されない高品質なサービスを提供できます

さらに、新たにこんなメリットもあるという。

中川

Kスキャンの情報は社内で共有され、サービスマンが品質保証の担当者と同じデータを見ながら相談することで、迅速かつ的確な支援を受けられるようになりました

マシンを見守る眼差しで迅速かつ最適に対応

Kスキャンは2つの機能で構成される。1つはエンジン、油圧ポンプに搭載した各センサの値をメカトロコントローラの中で圧縮・加工。それをITコントローラから専用サーバに毎日送信し、日々の変化の傾向から健康状態を診断する『状態観察』。もう1つは、巡回点検時にサービスマンが行う検査運転を自動化し、常に同一条件で健康状態を診断する『健康診断』だ。

西日本コベルコ建機の福岡工場で、Kスキャンを運用する松本竜馬は、実際の活用シーンを以下のように説明する。

松本

Kスキャンでは、広範囲で稼働する各マシンの状況を、私たちの拠点から専門のWeb画面を見て把握できます。毎朝サービスマンがお客様訪問をする前に、データ分析による提案内容をもとにメンテナンス方針を決定。点検個所の目星をつけてから対応に向かっています

Kスキャンによる『状態観察』と『健康診断』は、数値やグラフで可視化。
お客様への訪問前に、サービス担当者と作業内容の確認やメンテナンス方針のすり合わせが容易になる

事前に対応内容を予測できることは、携行すべき装備・部品等を絞り込めるなど、業務の効率化にもつながっている。お客様のもとでのサービス対応を担当する藤晃宏は、効率化に加え提案性の向上も感じていると語る。

従来のMERiTシステムを使うことで、各マシンの所在はGPSによりWebの地図上で確認可能。これにより、サービス出動の際には近隣で稼働するお客様の現場にも巡回できるといった効率化が図られてきました。10型モデルからは、訪問時に点検の説明をする際、Kスキャンのデータをタブレット端末でお見せすることもできるので、点検の必要性に対するお客様のご理解も深まっていると感じています

データの蓄積と連動した継続的な成長を目指す

Kスキャンは、開発途中の段階で北海道から沖縄に至るさまざまなお客様に、合計50台のモニタ評価を依頼。気候や温湿度、粉塵などの環境、業態ごとの使われ方や負荷の違いなど、さまざまなケースでのデータを織り込むことで、システムとしての精度をアップさせてきた。

中川

今後もKスキャンのデータとサービス現場における活用情報がどんどん蓄積され、それらをきっちりと分析してより付加価値の高い情報をサービス現場に提供できるよう、継続的に取り組んでいきます。ユーザとサービスと開発が、ショベルの稼働データを通じて信頼を構築していく。こうしたサイクルもKスキャンの魅力です

日々のデータから傾向を把握し、サービスマン同士で議論する文化も浸透しつつある。優れた事例の共有が、各スタッフのモチベーションやスキルアップにもつながっているようだ。

松本

蓄積データが拡大するなかで、閾値(しきいち:トラブルの予兆の境目となる数値)設定の妥当性などを吟味しながら、各現場に適したマシンの設計改善といった市場側からの提案もしていく予定です。現場と開発が交流を深めることで、さらに磨き続けていきたいですね

目下、Kスキャンは海外モデルへの搭載も準備中。今後は、コベルコ独自の見守り機能をグローバルに展開していく。

※掲載内容は発行当時(2017年7月)の情報です。