開発ストーリー 03
従来の低燃費性能をよりいっそう追求すると同時に、生産性の向上を実現。加えて、SKシリーズ10型の特長である高耐久も踏襲した、新たな価値を創造するハイブリッドショベル
今、地球温暖化の原因となるCO²をはじめとする温室効果ガスや、大気汚染・健康被害をもたらすNOx(窒素酸化物)などの削減は、エコロジーや持続可能社会を合言葉とした国際社会全体の課題となっている。
整地や掘削、解体など、さまざまな現場で活用されるショベルにおいても、省エネと環境負荷の軽減は焦眉の課題。そのためのソリューションとして、動力源である内燃機関(エンジン)と電動機(モータ)をともに備えたHEV(Hybrid ElectricVehicle)は、現在トレンドとなりつつある。
コベルコはこうした潮流に対応すべく、独自のハイブリッド技術の粋を集めた20tクラスのハイブリッドショベル、SK200H-10を開発した。
今回の開発プロジェクトのリーダーを担った山下耕治は、こう語る。
そして12年、20tクラスのSK200H-9をリリースし、その圧倒的な低燃費性能により「低燃費のコベルコ」の評価を不動のものにしたことは記憶に新しい。
今回のSK200H-10はSKシリーズ10型の特長である高耐久性を引き継ぎつつ、燃費性能をさらに向上。また、従来機よりも作業速度が劣るといった、今までのハイブリッド機に対するネガティブなイメージを払拭する性能も実現している。そのカギとなったのは、「発電電動機の大型化」「旋回駆動の完全電動化」「リチウムイオンバッテリの採用」の3つだった。
SK200H-10の開発がスタートした当時、リチウムイオンバッテリの採用には、安全上の理由で乗り越えるべきハードルがいくつもあり、「実用化は時期尚早」というのが通説だった。しかしコベルコは、国際連合危険物輸送勧告への対応はもちろん、振動や衝撃、外気温や周囲に舞う粉塵など、実際の現場における機械の過酷な稼働状況を想定したテストも実施。安全性を十分に確認した上で、ようやくリチウムイオンバッテリの採用が実現したのである。
このリチウムイオンバッテリの搭載と同じく、生産性アップを目的に取り組んだのが、発電電動機の大型化だった。システム開発を担当した小岩井一茂は、そのポイントについてこう語る。
小岩井
大きなテーマだったのは、熱をいかにして逃がすかということ。そのために空気の流れなどを考慮して、内部構造を極力シンプルなものにしました。そうすることによって、不具合のリスクが軽減し、メンテナンスもしやすくなるからです
生産設計を担った佐伯誠司は、
佐伯
設計、解析、実験を繰り返して製品精度を磨き続けた結果、大型化したSK200H-10の電動機は、従来機と同じエンジンスペースに収まるコンパクトな設計をキープしつつ、クラストップレベルの出力を生み出すことに成功しました
と胸を張る。
SK200H-10では、製品コンセプトとの親和性を高めるべく、各コンポーネントをすべて自社開発している。それは、従来機では専門メーカの製品を採用していたハイブリットショベルのコントローラも例外ではなかった。そこで、コベルコはコントローラメーカに開発エンジニアを出向させた。その役割を担当したのが藤原翔だ。
藤原
大前提として、そもそもショベルに求められる要件や、SK200H-10の開発思想などを相手先のエンジニアと共有することからスタートし、この機械に最適なコントローラの開発に努めました
その後、開発はハイブリッド機ならではの使い勝手や操作感のチューニングへとフェーズを進めた。ここでは、最善の方法を追求してきた各分野の相互調整を図り、システムとして最大の成果が発揮できるようにすること。つまり『部分最適から全体最適へ』がテーマとなった。
最高レベルの低燃費性能を誇るSK200H-10は、その生産性もSK200H-9のSモードと比べて、18%向上している
全体最適化を図るために着手したのは、工場内に専用のベンチテスト環境を構築することだった。これは、ハイブリッド機器単体での性能評価だけではなく、組み合わせによるシステムとしての性能評価も可能にするもの。温度や負荷条件の変化といった諸条件を加味した試験を繰り返し、マシンのパワーと信頼性、安全性を徹底して検証していった。
さらに、北海道から九州に至る全国のお客様の協力を得て、試作機によるモニタ稼働を実施。マシンの各ポイントにセンサを設置してデータ収集を図り、現場の声による改善提案とともに開発部門へと還元。ブラッシュアップを重ねた。
今回の機械は、旋回電動モータを搭載している。度重なるテストとモニタの声を反映したことで、違和感のないスムーズなチューニングを実現。また、大型の発電電動機がエンジンをアシストするため、エンジンの回転数を下げても必要な動力を確保することが可能に。同時に、エンジン回転数の低下は騒音の軽減ももたらし、オペレータの作業環境の改善にも成功した。
小岩井
瞬時にトルクを生む機動力や加速感は、現行機以上だと思います。とりわけ、旋回しながらアタッチメント操作をするなどの複合的な動きでは、それを強く実感していただけると自負しています
山下
モニタ稼働の段階で『このまま現場で使いたいので売ってほしい』というお客様や、徹底した省エネ性に驚かれ『燃料計が壊れているのかと思った』とおっしゃる方もいらっしゃいました(笑)
こうして、数多の品質確認をクリアして、SK200H-10は完成した
佐伯
まずは実際に乗って操作していただければ、今までのハイブリッドショベルの概念が一変するはずです
これまで、操作性やパワーに課題があるというイメージからハイブリッド機を敬遠してきた方や、ほかのハイブリッド機の性能に満足できなかった方にこそ、ぜひ試していただきたい―。それが、自信に満ちあふれたエンジニアたちからのメッセージだ。
20tクラスでトップレベルの電動機出力を実現。これにより、ハイブリッドではない従来機と同等の作業能力を保持することに成功した。
旋回電動モータを搭載し、従来旋回に使用していたエネルギーを掘削などの作業に回すことで生産能力が向上。チューニングにもこだわり、標準機と同等の旋回操作性を実現した。
蓄電した電気を持続して保持することができるため、維持したエネルギーをエンジンの負荷領域に応じてアシストし、エンジン出力を抑えることが可能になった。
※掲載内容は発行当時(2016年10月)の情報です。
山下
そもそもコベルコには、ハイブリッドショベルの先駆者としての実績があります。1999年から神戸製鋼技術開発本部と連携してハイブリッドの研究開発に着手。2006年の春にパリで開催された国際土木建設機械見本市『Intermat』で、ハイブリッドショベルの第1号機となるSK70Hを発表しました。さらに09年12月には、SK80Hの販売を開始。これは当初の目標だった25%の燃費低減を大幅に上回る、40%という数値を達成するものでした