コベルコ建機×日経BP総研 
社会インフラ ラボ SPECIAL対談

新時代に向かう土木・建設業界
コベルコ建機が考える
現場のICT化とは?

開発ストーリー 06

ICT建機

「i-Construction」の動きに対し、コベルコ建機はどう呼応しているのか。現在の社会動向と技術革新に目を向けつつ、今後の現場のICT化とお客様メリットについて語り合う。

絹川 秀樹
コベルコ建機株式会社 常務執行役員
マーケティング事業本部 ショベル営業本部 本部長
1984年、神戸製鋼に入社し、建設機械の開発などを手がける。その後、1999年にコベルコ建機に入社。生産本部、企画管理部、営業本部営業促進部長などを経て、2018年から現職

安達 功
日経BP社 執行役員
日経BP総研 社会インフラ ラボ 所長
エンジニアリング会社勤務を経て日経BP社に入社。『日経コンストラクション』『日経アーキテクチュア』『日経ホームビルダー』の編集職を経て、2017年より現職

効率性と安全性を兼ね備えたICT建機を目指して

安達

今、土木・建設業界の一番の課題は、やはり人手不足ですね。

絹川

おっしゃる通り。特にショベルを扱う現場では、それが顕著に現れていると感じます。

安達

その背景にあるのが人口問題でしょう。向こう30年間で2,100万人もの人口減少が見込まれています。年齢構成に注目すると、前回の東京五輪開催時の1964年は、若年層が約25%に対し高齢者は約6%。一方、2020年には高齢者が約30%となり、若者は約12%になると予測されています。

絹川

そうなると当然、担い手不足もさらに深刻化します。若者がこの業界に入職しないのは、仕事の性質上事故が多いことも要因の1つだと分析しています。実際、国内の労働災害による死亡事故が年間約1,000件あるうち、約30%が建設業。製造業の18%、陸上貨物運送事業の13%と比べても頭一つ抜けています。

安達

「危険な仕事」という世間のイメージを裏付けるデータですね。少子化が進むなかで、わが子には安全な仕事に就いてほしいという親心も影響しているのではないでしょうか?

絹川

そうですね。

安達

こうした背景もあり現在、現場の生産性向上などを目的とした「i-Construction」によるICT施工が推進されています。建機メーカもそれぞれICT建機の開発に注力していますが、コベルコ建機はどのような方針で動いているのですか?

絹川

当社としては、ICTを活用した生産性向上はもちろん、安全性にも注力し、「誰でも働ける現場」の実現を目指しています。

イノベーション:IoTソリューション

デジタル技術の飛躍的な発展が不可能を可能にする

安達

ICT建機は「誰でも働ける現場」には欠かせませんが、その能力を左右するのがデジタル技術ですよね。

絹川

その通りです。

安達

コンピュータの情報処理能力の進化は凄まじく、この10年で約1,000倍になったといわれています。近年話題のディープラーニング(深層学習)に例えると、10年前には1日にメモ1枚の情報しか認識できなかったものが、1,000枚覚えられるようになった。一方でHDDなどの値下がりが象徴するように、情報処理の効率化は製品のコストダウンももたらしています。今後もデジタル技術の性能は急速な向上を続け、“今日の不可能も明日は可能”になっていくはずです。

絹川

そんな“不可能を可能にする”デジタル技術は、すでに当社の製品にも生かされています。その代表が『ホルナビ』です。

安達

具体的にはどのようなことが可能になったのでしょうか?

絹川

『ホルナビ』は、測量位置情報をもとにディスプレー表示と音声案内で、ショベルの正確な掘削作業をナビゲートするシステムです。2017年にはそのオプションとして、熟練オペレータの複合的なショベルワークを、簡単なアームレバー操作だけで正確に再現する『ホルナビ+PLUS』も発表しました。これにより、従来不可能だった「初心者が熟練者並みの作業効率や生産性、仕上がり精度で作業をすること」が可能になりました。さらに、丁張りやマシン周囲で働く人員も不要になるという省人化も実現しています。

安達

省力化やスピードアップ、コスト削減とともに、施工現場の安全性もより担保されるということですね。

絹川

それに加えて、『ホルナビ』は大手測量メーカ3社(トプコン、ニコン・トリンブル、ライカ)のシステムに対応し、お客様に応じたカスタマイズを可能にしています。

誰でも熟練オペレータ並みの生産性と精度を実現できる『ホルナビ+PLUS』。
「熟練者が使えばさらなる作業効率化ができる」という声も現場から挙がっている

開発ストーリー:ホルナビ+PLUS
PICK UP:ICT施工が現場を変える。はじめるなら、ホルナビ。

現場の「環境改善」と「働き方改革」を実現

安達

先ほどお話にでた安全性に対してはどう取り組まれていますか?

絹川

作業中の事故は、ショベル旋回時の人との接触や巻き込み、後方走行時に接触したり轢いたりしてしまうケースがほとんどです。実は当社では、1980年代にショベルの旋回や後進時にアラームを鳴らす『旋回フラッシャ』という事故防止機能を業界で初めて搭載させていました。

安達

マシン周囲の作業員に、警告を発するものですね。

絹川

その後も、カメラを搭載したりしたのですが、オペレータが複雑な作業をしながら周囲にも目を配るのは、難しいものでした。

安達

それを踏まえ、昨年発表した衝突軽減システム『K-EYE PRO』はどう進化したのでしょう?

絹川

『K-EYE PRO』は、万一、人や障害物を検知した場合はマシンが自動的に減速・停止します。単に警告するだけでなく、能動的に事故を防げるのが特長です。ちなみに、現場は粉塵や水しぶきなども多いので、誤認を防ぐために検知システムには光学的なカメラではなく、赤外線深度センサを採用しました。

建機メーカ初の衝突軽減システム『K-EYE PRO』。現在は20tクラスのオプションだが、
今後は標準化やその他のクラスへの搭載も目指している

安達

安全性という面からも「誰でも働ける現場」づくりを、着々と進めていますね。ところで、2020年には通信規格が「5G」になる予定です。伝送容量や速度が劇的に向上することで、例えば医療現場では、日本から海外の外科手術に参加できるといった期待も膨らんでいます。建機業界ではどのような活用を想定されていますか?

絹川

当社もすでに5Gに対応した『K-DIVE』という遠隔操作システムを開発し、近い将来の実用化を目指しています。5Gなら遠隔操作でも、レスポンスの時間差がなく、音や振動、傾きなどの臨場感も再現可能です。オペレータは実現場に行かずに、オフィスや自宅などから地球上のあらゆる現場の機械を操れるようになるでしょう。

安達

夢のような話が現実になっているのですね。そうなると子育て中の女性や障がいのある方も含め“誰でも、どこでも働ける環境”が整います。夏でも空調が効いた室内で作業でき、事故はもちろん熱中症などの健康リスクも回避できる。まさに現場の「働き方改革」を実現するシステムですね。

現場の「働き方改革」のカギになり得る、遠隔操作システム『K-DIVE』

お客様に寄り添い、状況に応じたICT化を提案

絹川

ICTの普及で、建機にはさまざまな変化が起こっていますが、それを活用するお客様にも経営の変革期を迎えている企業が数多くあります。

安達

近年は経営者の世代交代が進んでいる傾向もありますからね。

絹川

はい。新しい取り組みをしたい、現状維持を優先させたい、またICT導入の必要性を感じつつも踏み出せないというように、お客様にもさまざまな考え方や事情があります。

安達

そうした状況下で、コベルコ建機として、お客様へどのようなメリットを提供できるのでしょう?

絹川

当社が常に貫くのが「ユーザ現場主義」の姿勢です。これまで申し上げた通り、コベルコのICT建機には、さまざまなラインナップがあります。私たちは状況に応じたコンサルティングを含め、お客様に寄り添った提案をすることで現場が抱える課題を解決に導くことを目指しています。

安達

経営方針にかかわらず、建機を使う企業にとってICT化は不可欠になる時代がそこまで来ています。ですので、この姿勢はお客様にとっても心強いものだと思います。デジタル技術は社会を一気に変革する可能性を秘めたものです。五輪景気で経営的なゆとりがあるこの時期に、明日への準備と投資を図ることは、次代を勝ち残る秘訣にもなるでしょうね。

絹川

ですから私たちはそのお手伝いができればと考えます。

安達

最後に、ICT建機にかかわる今後の展望を教えてください。

絹川

例えば、ショベルで獲得した知見をもとに、XYZ軸による3Dの位置決めやブーム角変化に伴う揚重計画の最適化など、クレーンのICT化にも着手していく予定です。開発陣によるお客様へのヒアリング頻度は、建機メーカの中でも当社が最多だという自負があります。今後もお客様のご要望をカタチにしていきますので、新時代の土木・建設業に向かう皆様の“夢”をドシドシお聞かせください。お客様に寄り添いながら、私たちも成長していければと思います。

※掲載内容は発行当時(2018年7月)の情報です。